「ん…今、何時……?」


痛みから解放されたのは、眠ったからだった。

時計を見ると、5時を回っていた。


「ヤバッ!早く行かなきゃ…!」


急いで飛び起きて、未だ鈍い痛みのする腹を押さえながら教室に戻り、荷物を持ってコートへと走った。







「…越前、遅刻の理由は何だ?」

「その…」


当然過ぎた時間なのだから遅刻は決定で、目の前の手塚に見下ろされた。

そんなリョーマを気の毒に思ったのか、事情を知っている菊丸がはいはーい!と手を挙げた。


「手塚、おチビねーお腹が痛くて保健室で休んでたんだよ?許してあげてにゃ!」


菊丸の言葉を聞いた手塚は、一変して心配そうな表情になった。


「今はもう平気なのか?」

「…少し、痛いっすけど…」


リョーマが下腹部辺りを撫でると、不二は何かに気付いたようにハッとした。


「手塚、リョーマ君は見学させてあげて。今日から5日間ぐらい…」

「何故だ」

「ん〜…その内判るよ」


にこにこしながら言う不二は、いつもに増して怖かった為、誰も反対はしなかった。

不二はリョーマにボソボソと耳元で何かを告げると、リョーマは真っ赤になって憤怒した。


「不二先輩!そんな訳ないでしょ!!!」

「クス…そう?間違ってたら謝るよ」

「俺は別に…」

「明日が楽しみだね」


人の話なんて全く聞いちゃいない不二の返答に、リョーマは脱力した。


(どうせ…明日には治ってるはずだし…)






















































翌日、リョーマはかなり落ち込んでいた。

周りに居たレギュラーまで暗くなってしまう程に。


「リョーマ君。昨日言ったのはどうした?」


傍目にも楽しそうに問い掛けてくる不二を、リョーマはキッと睨み付けた。


「…………………でした」

「ん?ゴメン、聞こえなかったよ」

「だから、先輩の言った通り『生理』でしたって言ってんの!!!」

「「「「「えぇ〜?!!」」」」」


リョーマの怒鳴り声に、レギュラー陣は慌てた。

手塚は眼鏡を落とし、大石は転んでしまうほどに…。


「…で?ちゃんと付けてきたかな?」

「そりゃ…汚れちゃうし…。でも何か痒い!」

「あ〜、蒸れちゃってるのかな…?そうだ、今日は僕の家に寄ってから帰ってよ」

「何でっすか…」

「君の事だから、適当に付けたんだろ?ちゃんとした使い方と、鎮痛剤を分けてあげるv」

「にゃ!やっぱり不二って生理があったの!?」


阿呆な菊丸の言葉に、不二は首根っこを掴んだ。


「英二…そんな筈ないだろ?姉さんが居るんだから、君だって多少は知ってると思うけど?」

「にゃ…そうだったにゃ…って!そしたら俺の家でもいいじゃん!」

「ダメ」

「にゃんで?!」

「英二は嘘が下手な上に、家族も多いからね。絶対にバレる」


リョーマは内心、そりゃ不二先輩ほど嘘が上手い人間は居ないだろ…と思っていた。


「だから、今日は一緒に帰ろうね、リョーマ君」

「はぁ…いいっすけど…」

「じゃあ、君は此処で見学」


ベンチに誘導され、そこに座った。

他レギュラーの練習を、リョーマは退屈そうに眺めるしかなかった。












































「リョーマ君、行こうか」

「うぃーす」


部室から出て行く二人を、残りのレギュラーは心配そうに見ていた。

何せ相手は大魔王不二。どんな事をするか判ったもんじゃない。

だが、その魔王に尾いて行くほど、勇気のある男が居ないのも事実だった。










「リョーマ君、今日辛かったでしょ」

「…まぁ」


テニスが出来なかった事に関してかな…そう思ったが、どうやら違うようだった。


「2日目だもんね…。でも、良かったねv男が生理だなんて、普通なら一生経験出来ないよvvv」

「経験なんてしたくないっすね…」

「ふふ、そう?」


不二の怪し気な含み笑いを聞きながら、不二家の前まで来た。


「じゃあ、どうぞ」

「…お邪魔します」














「そう…これを此処に付けてね…。うん、上手い上手いv」

「はぁ…やっと出来た」


何個かの生理用品を駄目にしながらも、リョーマはやっと付け方を覚えた。


「あ…すいません。10個ぐらい、駄目にしちゃって…」

「いいよ。僕の家、女が多いからね。結構あるんだ」


不二は使えなくなった物を集めながら、『練習』に使っていた姉である由美子のパンツを拾った。


「クス…姉さんには内緒だよv」

「…勿論っすよ。言ったら俺の身体の事までばれちゃうじゃん」

「そうだったねv」


そう言いながら、不二は小さな袋を渡してきた。


「これ、鎮痛剤だよ」

「あ、どもっす…」

「夜道は危険だから、送って行くねvvv」










何故か判らないが、不二はリョーマと手を繋いで歩いた。


「?不二先輩…」

「ちょっと…こうしててね…」


神妙に言うもんだから、リョーマもそのままにしておいた。


「…有難う、もう此処だよね?」


いつの間にか着いていた自宅前。あっという間だったため、少し名残惜しい気がした。


「ねぇ、リョーマ君」

「何すか…っ!」


不意に頬にキスされ、リョーマは身体を仰け反らせた。


「ふふ、また明日ねv」

「………///」


真っ赤になりながら家に入るリョーマを、何故かノートを持った乾が見ていた…かどうかは謎であった。